CRAFT Magazine

インタビュー

タイヤの知見をシューズに活かす――CRAFT × Vittoriaが生んだ革新的アウトソール

スウェーデン発のランニングブランドCRAFT(クラフト)が展開するハイパフォーマンスシューズ「Kype Pro(キーププロ)」やトレイルにもロードにも強みを持つ「Xplor(エクスプローラー)」。
これらのモデルには、一見して目を引く独特なアウトソールが採用されている。実はこのソールは、イタリアの名門タイヤメーカーVittoria(ヴィットリア)とCRAFTの共同開発で生み出されたものなのだ。今回Vittoriaの日本総代理店であるVTJ(ブイ・ティー・ジェイ)の藤井氏と武井氏に、この特徴的なアウトソールについてお聞きした。

走行性能に影響する“タイヤの発想”

採用されているアウトソールには、Vittoriaが得意とする「グラベルタイヤ」由来のトレッドパターンがベースとなっている。グラベルタイヤとは、アスファルトからオフロードまで幅広い路面に対応する自転車用タイヤで、路面状況に応じた多角的なグリップ性能が求められる。

CRAFTの「Xplor」では、センターに矢尻状のブロック、周辺には六角形や三角形のノブ(突起)を配置。これらはVittoriaの人気モデルのトレッドパターンから着想されたものであり、推進力と制動力を両立させる設計思想が反映されている。

「Xplorのアウトソールには、Vittoriaのグラベルタイヤ『Terreno Mix(テレーノ・ミックス)』に採用されているアグレッシブな矢じり型ラグ(トレッドパターン)を取り入れており、オフロードでの卓越したパフォーマンスを実現します。さらに『Terreno Dry(テレーノ・ドライ)』に着想を得た魚のウロコ状のトレッドパターンも同時に取り入れることにより、舗装路や濡れた地面でも優れたグリップ力を発揮します。厚みの異なるフレックスグルーブ(屈曲した溝)がトラクションを向上させ、戦略的に配置されたカットアウト(切り抜き)によって軽量化も成し遂げています。あらゆる地形や変化する気象条件下で、こだわりのあるランナーに最適なパフォーマンスを実現できるのではないでしょうか。」と藤井氏は説明する。

なぜVittoriaとの協業が実現したのか

Vittoriaはもともと自転車競技に特化したタイヤメーカーであり、プロ用機材にも数多く採用されるなど、高い技術力と信頼性を誇る。一方、CRAFTは北欧発の機能性アパレルブランドとしてアスリートからの支持が厚く、近年はシューズ開発にも注力している。

両社の共通項は「パフォーマンスと実用性を妥協しない姿勢」にある。

「見た目だけのパターンなら簡単ですが、今回は“どんな地形でどう効くか”を一つひとつ検証しながら作りました。Vittoriaとしても初の試みでした」と武井氏は語る。

ヴィットリアの歴史

ここで、ヴィットリアの歴史について説明しておこう。1953年に設立されたヴィットリアはサイクリング業界において高い評価を受けるパートナーシップを築き上げ、独自のブランドイメージを確立してきた。現在のヴィットリア・グループは、レース用およびスポーツ用の高品質な自転車タイヤを製造する世界有数の企業であり、年間約700万本のタイヤと90万本のチューブラータイヤおよびコットンタイヤを生産している。

ヴィットリアのR&Dセンターでは、あらゆるレベルのレーサー向けに最適なレーシングタイヤ、特にロードレーサー用タイヤ「コルサ・シリーズ」の独自のコットンタイヤを開発しており、2020東京オリンピックでは、ヴィットリアのタイヤを使用した選手が40個以上のメダルを獲得した。

タイ・バンコクにあるヴィットリア・タイヤ・タイランドは、現在2つの地域に7つのプラントを保有し、グループの高品質な自転車タイヤ、チューブラー、インナーチューブの製造拠点であり、販売およびマーケティングネットワークは、北米(オクラホマシティ)からアジア太平洋地域(バンコクおよび台湾)、そしてヨーロッパ(イタリア、イギリス、オランダ、ドイツ)へと広がっている。グループ全体で約1,000名以上の従業員を擁している巨大企業なのである。

ヴィットリアは2015年9月、世界で初めて、最新素材「グラフェン」を使用した自転車タイヤのフルラインナップを発表し、これはサイクリストにとって「より速く、安全で、強靭な」革命をもたらしたのだ。

(左:VTJ藤井氏 右:VTJ武井氏)

市場からの反応と今後の展開

CRAFTの試し履きイベントでは、「ソールが柔らかく、グリップが効く」「見た目も面白い」といった反応が多く寄せられている。中には自転車ユーザーから「このパターン、まさかVittoriaでは?」と即座に気づくケースもあるという。

「トレイルランナーの方が“自転車のタイヤみたいで面白い”と反応してくれるのは非常に嬉しいですね」と、藤井氏も語る。

今後は、トレイル専用モデル「Pure Trail」など、さらなるVittoriaパターン応用モデルの展開も予定されている。

「異業種の知見融合」が生み出す新たな価値

今回のCRAFTとVittoriaの取り組みは、自転車という“移動”の領域と、ランニングという“身体”の領域において“走る”という共通項があることから生まれている。それぞれ異なる分野で培われたノウハウが、アウトソールという接地面で融合することで、新たな価値を創造しているのだ。

「シューズ業界ではここまでトレッドパターンの機能性にこだわるケースはまだ少ないと思います。でも、タイヤで培った考え方が活きる領域だと確信しています」と、藤井氏は締めくくった。

「タイヤのようなソール」「走りを変えるパターンデザイン」。そんな言葉が自然に出てくるような、次世代のパフォーマンスギアが、今まさに誕生したのだ。

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