トレイルランニングのデビュー戦となった日本山岳耐久レースで大会新記録優勝、2016年にはスカイランニングU-23世界選手権優勝、UTMB CCC準優勝など彗星のように現れ、トレラン界を牽引する上田瑠偉選手。CRAFT編集部はそんな上田選手に、“走る”上で重要な相棒であるシューズについてのこだわりをお聞きした。
トレイルランニングにおいてはシューズの使い分けが必要
CRAFT編集部:トレイルランニングの世界でトップを走り続ける上田瑠偉選手に、シューズ選びについてお聞きしたいと思います。まず、シューズの重要性についてどのように考えていますか?
上田瑠偉選手:トレイルランニングは主には山を走るので、泥や岩があったり、傾斜のきつい箇所があったりとコースごとに本当にバリエーションがありますし、さらに天候などによっても状況が全く変わっていきます。そうした状況に合わせたシューズの選択は、結果を出すために一番の要ではないでしょうか。ただし、シューズメーカーには各社の特徴があり、得意不得意もあるので、1社のシューズだけですべての環境に対応できるわけではないと思っています。なので、僕は特定のブランドにこだわらず、レースごとに最適なシューズを選ぶようにしています。
CRAFT編集部:レースごとにシューズを使い分けているということですが、実際にどれくらいの種類を持っていくのでしょうか?
上田瑠偉選手:海外遠征では1レースにつき2〜3足を持参します。初めて走るコースでは、事前に地形を調べても、実際に試走してみないと分からないことが多いため、第1候補と第2候補を用意しています。連戦になると、4〜5足を持っていくこともありますね。
CRAFT編集部:上田さんはシューズ選びにおいて、どういった点を重視されますか?
上田瑠偉選手:そうですね。適切なシューズを選ぶことで、より快適な走りができるのはもちろん、怪我のリスクも軽減できます。そのためにまず一番はフィット感です。トレイルランニングは長距離を走るので、足のトラブルが起きないようにするためにはフィット感が大事だと思います。そして次に、トレイルランニングでは山の上の滑落があるので、グリップ力も重視しています。

佐久長聖高校で駅伝に励むも、怪我に苦しみ満足に走れず卒業。早稲田大学進学後、陸上競技同好会に所属し、トレイルランニングを開始。デビュー戦で大会新記録優勝、続く日本山岳耐久レースで6位入賞。2014年同大会で最年少優勝し、記録を18分更新。2016年にはスカイランニングU-23世界選手権優勝、UTMB CCC準優勝。2019年、Skyrunner World Seriesでアジア人初の年間王者に。2021年にはスカイランニング世界選手権で二冠を達成。2022年、富士山を4度登る「Mt.Fuji ONE STROKE」に挑戦し、ギネス世界記録を樹立。国内外で数多くの優勝を飾り、オリジナルブランド「Ruy」の運営や写真集の販売など多方面で活躍している。
CRAFT編集部:なるほど、フィット感とグリップ力ですね。トレイルランニングは日本での競技人口が約20万人と言われていますが、ランニング人気とともにトレラン市場も拡大しつつあるように感じます。それに伴い最近のランニングシューズ、トレランシューズはかなり進化しているように思いますが、どのように感じていますか?
上田瑠偉選手:ここ数年で、シューズは格段に軽量化されています。アッパーの素材が薄くなりつつも、強度を維持する設計が進んでいます。また、ロードランニングの影響を受けて、カーボンプレートを搭載したトレイルシューズも登場していますね。
CRAFT編集部:カーボンプレートシューズは、反発力のあるカーボンファイバー製のプレートをミッドソールに組み込むことで、バネのように前への推進力を生み出してくれるシューズですよね。走る際のエネルギー効率が良いという点で昨今注目されています。カーボンプレートのシューズについては、どのように考えていますか?
上田瑠偉選手:トレイルランニングにもカーボンプレートシューズは入ってきていますね。路面が硬いコンディションだとそのメリットが出やすいので、UTMBのような硬いトレイルでは有効です。一方で、正直なところ、柔らかい腐葉土や木の根っこが多い日本のコースでは活かしにくいのではないかとも思います。なのでロードランニングにおいては非常に面白いシューズではあるものの、トレイルランニングにおいては使い分けが必要ですね。

CRAFT編集部:なるほど、確かにコンクリートなど硬い地面では反発力を発揮しますが、逆に柔らかい地面だったり、凸凹のある地面だとリスクになり得るということですね。CRAFTはトレランシューズとしてPuretrailシリーズなどを出しています。上田瑠偉選手に試していただいていますが、履き心地、走り心地はいかがでしたか?
上田瑠偉選手:Puretrailで飯能を20kmほど走ってきたんですが、ミッドソールが硬めで、岩場の突き上げを防ぐ設計になっていますよね。硬めのトレイルやロードの長いセクションでは、転がるように進めるのが特長かなと感じました。
CRAFT編集部:ありがとうございます。かなりトレイルランニングに特化した作りなので特徴的な生地や構造になっているかと思います。
上田瑠偉選手:生地も伸びにくい仕様になっているなと感じました。トレイルランニングではあまり生地が柔らかいと足が横ぶれして推進力が得られなかったり捻挫のリスクが高まると感じています。その点このPuretrailは安定感があり推進力も得られやすいです。フィット感がタイトなので、ワンサイズ大きめを選ぶのがポイントだと思います。
CRAFT編集部:どのようなレースで使えそうでしょうか?
上田瑠偉選手:日本のトレイルは柔らかかったり、木の根っこが多いので、そういったところとは相性が良いと思います。本当に転がる感じですごく進むなといった走り心地でしたね。

めちゃくちゃ気持ちいい「Pacer」
CRAFT編集部: Pacerも試していただいていますがどうでしょうか?
上田瑠偉選手:Pacerですが、最初に感じたのは『めちゃくちゃ気持ちいい』ということです。前側部が結構広いので、すごくゆとりがあって窮屈さがないです。一方で中足部のところが、めちゃくちゃフィットしています。なのでゆったりしている割にしっかりホールドしている感じになっていて履き心地がすごく良いです。あと、とにかくアルファルトのグリップ感がよくて、1km4分半前後のペースで20kmくらい走る時には重宝しそうです。クッション性に優れ、弾むような感覚で走れるので気持ちの良いシューズだなという印象です。ジョグやロングランで脚を守りながら、しっかりと推進力を得られるのではないでしょうか。

CRAFT編集部:ありがとうございます。おっしゃる通りで、とにかく北欧の厳しい環境に耐えるために技術を磨いてきて、履き心地と走り心地を追求しています。さらに、アディダスでデザインを行っていたEric(※編集部注:Eric Sarin氏)が2年前に加わって、そうした機能性を活かしながらもどう美しいフォルムに落とし込むかをかなり突き詰めて、今年やっとリリースできたんです。
上田瑠偉選手:先日CRAFTのシューズを30種類くらい見せていただきましたが、かなり北欧っぽい派手で個性的なデザインも多かったですよね。ビビットな感じでテンションが上がると思います。
CRAFT編集部:そうなんです。Pacerは白・黒・グレーと日本でもメジャーな色味にしているのですが、他は結構ビビッドな色合いのが多いんです。Ericはそれぞれ1つ1つのシューズの意味やあり方を突き詰めて、デザイン・カラーに落とし込んでいるのでいるので、一度デザインについてEricに聞いてしまうと何時間でも話し続けるくらいです。機能だけでなくそうしたデザインにも注目していただければと思います。

Eric Sarin:1995年~2001年ドイツadidasにて、adidasOriginalsブランド立ち上げ、プロダクトマネージャーを経験後、執行役員としてadidasのフットウェアデザイナー。2001年~アメリカK-Swissにて、グローバル製品担当副社長。フランスle coq sportifルコックスポルティフにて、グローバルマーケティングディレクター。アメリカPumaにて、フットウエア部門シニアプロダクトマネージャーを歴任後、自身のブランドAlmaMaterをカリフォルニア州マリブにて戦艦店を出店し、スウェーデンCRAFT Sportswearと独占的パートナーシップを結ぶ。
100マイルレースへの挑戦
CRAFT編集部:2026年に100マイルレースに挑戦予定と聞きました。
上田瑠偉選手:そうですね。特にアメリカのWestern States Endurance Run 100への出場を目標にしています。100マイルレースはこれまでの経験を大きく超えるものになると思います。
CRAFT編集部:2026年の予選レースで2位以内を狙うとのことですが、その準備はどのように進めていますか?
上田瑠偉選手:今年の秋以降は100kmのレースを重ね、長距離レースへの適応を進めています。競技人口の増加に伴い、シューズ市場も拡大しているので、新しいシューズの技術も活用しながら挑戦したいですね。
シューズは“最強の相棒”
CRAFT編集部:最後に、シューズ選びにおいて最も大切なことは何でしょうか?
上田瑠偉選手:トレイルランニングにおいて、シューズは単なる道具ではなく、走りを支える“最強の相棒”だと思っています。環境やコースに応じたシューズ選びをすることで、より快適で力強い走りが可能になります。 CRAFT編集部:今後の活躍を楽しみにしています!
上田瑠偉選手:ありがとうございます!これからも挑戦を続けていきます。

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