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最強の山岳ランナー・上田瑠偉、2025年“過酷”への挑戦

トレイルラン業界では知らない人はいないだろう、プロの山岳ランナーである上田瑠偉選手。2014日本山岳耐久レースで最年少優勝、2016年UTMB CCC準優勝、2022年には富士山を4度登るMt.Fuji ONE STROKEでギネス世界記録を樹立するなど華々しい活躍を見せている。そんな上田選手の躍進は、まだまだ続きそうだ。今年2025年、特別な目標に挑んでいるそう。なんとそれは、日本一の山岳レースとも呼ばれる「富士山登山競走」(今年は7月25日に開催予定)の大会記録更新だ。上田瑠偉選手に今年の目標からトレランの魅力などざっくばらんにCRAFT編集部がお聞きした。

世界一過酷な舞台!?富士山登山競走のリアル

「富士山登山競走のレースは、21kmの距離で標高差3000mを駆け上がる過酷なものです。現在の大会記録は2時間27分で、ここ14年間更新されていません。僕は2019年と2023年に出場しましたが、2019年は天候の影響より途中で中止、2023年は6位という結果に終わりました。今年こそは記録更新を目指し、注力しています。」

そう語る上田瑠偉選手だが、記録更新には大きな壁が立ちはだかる。というのもトレイルランニングは、陸上競技とは異なり、地形や天候、あらゆる状況によって大きく難易度が変化する競技だからだ。単純な歴代のタイムではなく、その大会での順位を重視するトレイルランナーも多いのもそうした理由だろう。こと富士山登山競走においては、まず前半10kmのロードパートと、標高3776mまで駆け上がるトレイルパートに分かれており、ロードとトレイルの両方を求められるという大会特有の難しさがある。

「前半はロードのスピードが求められ、後半は低酸素環境に適応しなければなりません。日本には3000mを超える山が少なく、高地トレーニングの環境を整えるのも難しい。そのため、富士山に通いながら特化したトレーニングを積む必要があります。」

さらに、2つ目として近年の気候変動や観光客の増加も記録更新のハードルを上げている。以前の大会記録が出た時は、前日が台風で人が少なかったそうだ。さらに現在は観光客が増え、気温も高くなっているため、より厳しい条件の中で挑むことになるだろう。もちろん昨年から富士山では登山者の規制がされ、1日4000人という枠が設けられたが、大会があるからといって登山者を2000人以下に制限されるわけではない。大会参加者1000人と登山者4000人の合わせて最大5000人の中でレースをマネジメントしなければならないのだ。

そんな中でも上田選手は、「2月も駅伝エントリしていて、3月はハーフマラソンにエントリしていて、今はその前半のロード部分にむけて力を高めるトレーニングを中心に行なっています。」と着々と準備を進めているようだ。

さらに上田瑠偉選手の挑戦はそれだけに止まらない。

「昨年は14レースに出場し、そのうち10レースが海外でした。今年は17レースに参加予定で、2025年8月に世界最大のトレイルレース『UTMB』に出場し、9月にはスペインで開催される世界選手権にも挑戦します。UTMBでは55kmのOCCカテゴリーで表彰台を狙っていますし、世界選手権では新たな土地でのレースに期待しています。」

なんと今年は国内海外合わせて17レースの出場を目標としているそうだ。7月の富士山登山競走から重要なレースが過密なスケジュールで待ち構えているのだ。

山岳ランナーとしてトップを走り続け、“過酷”に挑み続ける上田瑠偉選手。そんな上田瑠偉選手に今までで一番の“超えた”瞬間を聞いた。

「これまで何度も壁を乗り越えてきました。初めて70kmの日本山岳耐久レースで大会記録を18分更新した時、スカイランナー・ワールドシリーズ最終戦でライバルとの直接対決に勝ち年間王者になった時。どちらも強いプレッシャーがありましたが、そのプレッシャーを乗り越えた時の達成感が忘れられません。」

大自然を駆ける魅力!トレイルランの醍醐味

全てにおいてストイックかと思いきや、意外なプロフェッショナル観も話してくれた。

「プロとして結果を残すことは大前提ですが、それだけでなく『応援される選手』であることも大事だと思っています。ファンやハイカーの方との交流を大切にし、トレイルランニングの魅力を広めることも僕の役割です。」

レースやトレーニング中でも、声をかけられれば立ち止まって交流することもあるそうだ。

「ハイカーさんとのすれ違いでは挨拶を心がけていますし、ファンの方と写真を撮ることもあります。速いだけでなく、応援したくなる選手でありたいですね。」

トレイルランニングは日本での競技人口は約20万人で、レース開催は年間400ヶ所にものぼる。メディアでもトレイルランニング、通称“トレラン”のグッズや魅力は多く語られるようになってきたが、それでも約900万人いるジョギング・ランニング人口に比べると市場としてはまだまだ小さい。トップランカーだからこそ、競技者としてレースに勝つことは当然ながら、トレイルランニング市場自体をどう拡げ、盛り上げていくかも使命として捉えているのだろう。

続いてトレイルランニングの魅力をこう語る。

「トレイルランニングの魅力は五感を使って楽しめることです。春の花々、新緑、紅葉など季節ごとの景色を楽しめるのはもちろん、足の感覚で地面の違いを感じたり、川や滝の音を聞いたりすることができます。」

また、戦略性も大きな魅力の一つだ。

「登りが得意な選手、下りが得意な選手がいて、レース中に順位が大きく変動することもあります。長距離になるほど補給や体力配分が重要になり、マラソンとは違った駆け引きが生まれるのが面白いですね。」
と勝負師らしい魅力も教えてくれた。 常に新たな挑戦を続ける上田選手。今年、富士山登山競走の歴史を塗り替えることができるのか。
その挑戦に注目したい。

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